JD COLUMN

ジャパンデンタルのコラム

2025.02.10 コラム

開業医のための資金管理のポイント~将来お金に困らないために~

川嶋 一郎㈱ジャパンデンタル 管理部長
川嶋 一郎

はじめに
最近、業績が順調にもかかわらず資金繰りに支障をきたしている先生が増えてきました。当社では毎年、確定申告書を提出いただき業績を分析し、最終的にいくら資金の余裕(CF:後記2ご参照)があるかを算出しこれらを基にコンサルティングを実施しています。資金繰りに支障をきたした先生は余裕資金に乏しいよりも、むしろ余裕資金が多い先生に見られます。

なぜこのようなことが起きているのでしょうか?またこのような事態を招かないために何に気を付けたらいいのか、ライフステージ毎に開業医のための資金管理についてポイントを説明したいと思います。

 

1.開業時の年齢・必要資金・返済期間

2024年1月~11月に当社融資を利用し開業した先生の平均値は以下の通りです。

開業時年齢 37.4歳
総借入額 115百万円
借入期間 19.6年(元金返済据置2.5年含む)
完済時年齢 57.1歳

 
開業時年齢は、歯科医師国家試験に合格し研修医を経て概ね10年~15年後です。
借入総額は開業地にもよりますが、コロナ禍以後物価や人件費の高騰により増加傾向にあり今後も増加が見込まれます。これに伴い借入期間も約20年と長期化し、完済時年齢も約57歳となります。

 

2.開業後使えるお金(CF)と主な支出

開業前の勤務医時には、毎月の給与明細や給与の口座振込により自身が使えるお金がいくらかを明確に把握することができました。一方、開業後は売上と支出の差額が自身の使えるお金となりますが、これは自身で計算しないと明確に把握できません。

どれだけの先生が自身で使えるお金を把握されているでしょうか?
ここで、使えるお金=CFについて、本稿では以下の通り定義します。

CF=収入―(原価+経費)+利息+減価償却費―(所得税+住民税+社会保険料)

このCFを把握できていないと何にいくら使えるかわからず、いわゆるどんぶり勘定となり、冒頭で示した通り資金繰りに支障をきたす原因にもなります。尚、当社とお取引のある先生は、確定申告書をご提出いただいた後、CFがいくらかをご案内することが可能です。

(1)売上規模毎のCF平均値(当社2023年確定申告書分析より)

年商(百万円) 月商(百万円) 年間CF(千円)
30~36 2.5~3 10,134
36~42 3~3.5 12,014
42~48 3.5~4 16,801
48~54 4~4.5 16,413
54~60 4.5~5 15,656
60~66 5~5.5 16,709
66~72 5.5~6 24,652

(2)主な支出
ア.元金返済据置期間中(開業~2・3年)(単位:千円)

支出項目 年間支出 計算根拠  
① 生活費 4,800 400千円/月×12か月
② 開業資金返済 2,800 115百万円を年利2.5%で17年返済時の利息のみ
③ 住宅ローン 2,000 60百万円を年利1%で35年返済時の元利金
合計(①+②+③) 9,600

イ.元金返済開始後 (単位:千円)

支出項目 年間支出 計算根拠  
① 生活費 4,800 400千円/月×12か月
② 開業資金返済 8,310 115百万円を年利2.5%で17年返済時の元利合計額
③ 住宅ローン 2,000 60百万円を年利1%で35年返済時の元利金
合計(①+②+③) 15,110

 
その他、④子供の学費、⑤設備更新・修繕費、⑥自宅・診療所リフォーム 
⑦趣味(車・旅行等)⑧子供の結婚資金・孫への支援、⑨老後資金 等

まず、生活費と開業資金の返済は必要な支出です。開業資金は元金返済据置期間か否かにより約5,500千円の違いがあります。次いで、開業前か後かは別として、住宅ローンの返済が主な支出です。④以降はのちに必要となる支出です。

 

3.開業後のライフステージ毎の必要資金

(1)第1ステージ(開業~10年) ~将来に備えて預金の積み上げ~

ア 開業直後(2~3年)の主な支出と支出額
①生活費+②開業資金返済(利息のみ)+③住宅ローン返済=9,600千円

上記2(1)の売上規模毎のCF平均値より、年商30百万円(月商2.5百万円)程度あれば生活は可能です。

イ 開業3年~10年の主な支出と支出額(開業資金の元金返済開始)
開業資金の元金返済開始に伴い、支出額は15,110千円へ増加。年商42百万円(月商3.5百万円)以上が必要となります。

第1ステージで必要となる資金は上記の通りですが、これ以外では患者の増加に対応したユニット増設資金程度だと思われます。従って、このステージでは第2ステージ以降に必要となる資金を計画的に蓄積しておきましょう。冒頭で示した事例も、余裕資金を趣味等につぎ込み、資金の蓄積を怠ったのみならず借入金の増加による資金繰り負担増加が要因となっています。
 

(2)第2ステージ(10年~20年) ~一番お金が必要なステージ~

このステージで必要となる主な資金は、上記2(2)のうち
④子供の学費(大学)
⑤設備更新(ユニット、CT等診療機器)・修繕費(内外装) です。

ア 大学歯学部に通うために必要となる資金は下表の通りです。
国立大学か私立大かや自宅からの通学か否かによって大きく異なります。

資金繰りに支障をきたしている先生のほとんどが、自宅外通学の私立大学歯学部の場合です。将来子供に歯科医師を目指してほしいと希望する場合、第1ステージから資金の蓄積とともに不要不急の借入による返済負担の増加を避ける必要性をご理解いただけると思います。

<歯学部6年間にかかる総費用>(単位:千円)

国公立大学 私立大学
自宅通学 3,498~4,140 20,400~33,600
自宅外通学※ 17,880~18,540 34,800~48,000

※(6年間の仕送り)14,400千円

<歯学部1年間にかかる費用>(平均)(単位:千円)

国公立大学 私立大学
自宅通学 580~690 3,400~5,600
自宅外通学※ 2,980~3,090 5,800~8,000

※(1年間の仕送り)2,400千円

<子供1人が歯学部に通学の場合の必要年間CF>
 =15,110千円+学費(583千円~8,000千円)+その他借入元利金

イ 開業から10年以上経過すると、開業時に新調した設備も経年劣化により更新が必要となります。特にユニットは歯科医院にとって必要不可欠な設備です。法定耐用年数は7年ですが、大半は10年以上使用できます。その結果、子供の大学と設備更新が重なり相当資金が必要になる場合があります。

 

(3)第3ステージ(20年~閉院・事業承継まで)

このステージで必要な資金は、 ①生活費③住宅ローン返済⑤設備更新⑥自宅の修繕⑧子供の結婚資金・孫への支援 ⑨老後資金の蓄積 ⑩借入金返済(除く開業資金・住宅ローン)等です。

ア 開業から20年経過し、開業時の借入金はほぼ完済していると思われます。一方、自身の年齢も50代後半になり歯科医院の売上はピークから減少へ向かうことになります。このステージで重要な点は、借入金が残っている場合(大半の場合、50代後半でも借入金あり)、完済の目途を付けておくことです。また、ユニット等設備投資や子供・孫への資金支援、自身の自宅修繕費用に加え自身の老後資金の貯蓄も必要になります。

イ 第2ステージで子供の学費捻出のため多額の借り入れをした場合、この第3ステージをクリアすることは相当困難になります。借入金が完済できなければ最悪破産となります。借入金が完済できたとしても老後資金等の準備ができず、侘しく質素な老後生活を送ることになってしまいます。

冒頭で示した事例のように資金繰りに支障をきたすことが無いよう、自身のCFを正しく把握し、将来必要な資金が何にいくらかを見積り、それに見合った生活を送ることが肝要と思います。
  
以 上

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