㈱ジャパンデンタル
執行役員企画本部長兼システム部長
入江 英之
ビジネスにおいて成果を出すためには、単に知識や経験を積むだけでは不十分です。以前のコラム(2024.11.12ビジネスにおける必須スキル)では、特に重要な四つのスキル、「抽象的思考力」「転用力」「俯瞰力」「逆算思考力」をご紹介しました。
今回は、それらのスキルをどのようにして高めていくのかについて、実践的な視点から考察していきます。これらのスキルは、いずれも一朝一夕で身につくものではありません。しかし、日々の業務や学習の中で意識的に取り組むことで、確実に磨かれていきます。
1.抽象的思考力を高めるには
抽象的思考力は、具体的な事象から共通項や原理原則を見出すスキルです。この力を高めるには、まず「なぜそうなるのか?」という問いを習慣化することが重要です。
例えば、業務の中で成果が出たとき、単に「うまくいった」で終わらせるのではなく、「なぜうまくいったのか」「他の場面でも応用できるか」と考えることで、背後にある構造や法則を抽出することができます。
また、読書や他者との対話も有効です。特に、異なる分野の書籍や業界の話を聞くことで、共通する構造や考え方に気づく機会が増えます。抽象的思考力は、知識の幅と深さの両方によって育まれるものです。その習得には、下記のような段階的なプロセスが有効です。
<抽象的思考力の習得プロセス>
ステップ |
内容 |
---|---|
① 観察 |
具体的な事象を丁寧に観察する |
② 抽出 |
背後にある共通項や構造を見つける |
③ 整理 |
原理原則として体系化する |
④ 応用 |
他の場面に転用・活用する |
なお、抽象的思考力を鍛える際に陥りやすいのが、「単なる一般化」にとどまってしまうことです。表面的な共通点だけを拾い、深い構造や原理に至らない場合、応用力のある知見にはなりません。抽象化とは、単なるまとめではなく、再現性のある本質を見抜く力であることを意識する必要があります。
2.転用力を高めるには
転用力は、ある状況で得た知識や経験を、別の状況に応用するスキルです。このスキルを高めるには、「似ている点」と「違う点」を意識的に比較する習慣が有効です。
例えば、過去に成功したプロジェクトと現在進行中のプロジェクトを比較し、「何が同じで、何が違うのか」を整理することで、応用可能な要素が明確になります。
また、転用力は「引き出しの多さ」にも関係します。つまり、経験や知識を整理して、必要なときに取り出せるようにしておくことが重要です。日々の業務の中で、気づきや学びをメモに残し、定期的に振り返る習慣を持つことで、転用力は自然と高まっていきます。
転用力に関しては、「過去の成功体験をそのまま再現しようとする」ことが罠になりがちです。状況が異なるにもかかわらず、手法だけを転用すると、かえって失敗につながることもあります。転用とは、状況の違いを理解したうえで、本質的な要素を柔軟に応用することが求められます。
3.俯瞰力を高めるには
俯瞰力は、全体像を把握し、複数の視点から物事を捉えるスキルです。このスキルを高めるには、「立場を変えて考える」ことが効果的です。
例えば、組織内の上位者、中位者、下位者の立場の違い、組織の内外(社員とクライアント)の立場の違いといった視点の切り替えです。歯科医院の経営においては、院長としての視点だけでなく、スタッフや患者の視点からも物事を考えることで、より広い視野が得られます。さらに、業界全体の動向や社会的な背景を踏まえて判断することで、より的確な意思決定が可能になります。
また、情報を図やマトリクスで整理する習慣も、俯瞰力を高めるうえで有効です。複雑な情報を視覚的に整理することで、全体の構造や関係性が明確になり、優先順位の設定や戦略立案がしやすくなります。
俯瞰力を意識する際に注意すべきなのは、「視点を増やすこと=正解に近づくこと」と誤解してしまうことです。多角的な視点は重要ですが、情報過多になるとかえって判断が鈍ることもあります。大切なのは、複数の視点を持ちつつも、目的に照らして取捨選択できる判断力です。
4.逆算思考力を高めるには
逆算思考力は、ゴールから逆に道筋を描くスキルです。このスキルを高めるには、「目的から考える」習慣を徹底することが重要です。
例えば、何かを始める際に「なぜそれをやるのか」「最終的にどうなっていたいのか」を明確にすることで、必要なステップやリソースが見えてきます。逆算思考力は、計画性と実行力の両方を高めるための基盤となります。下記のようなステップで構築すると、実行可能な計画に落とし込みやすくなります。
<逆算思考力の構築ステップ>
ステップ |
内容 |
---|---|
① ゴール設定 |
最終的に目指す状態を明確にする |
② 必要条件の明確化 |
達成に必要な要素を洗い出す |
③ 目標・中間目標の設計 |
道筋を分割し、段階的に整理する |
④ 実行ステップの分解 |
具体的な行動に落とし込む |
また、ゴールを明確にしたうえで、目標・中間目標を「数値化」することも効果的です。曖昧な状態では逆算ができません。例えば、売上や患者数など、具体的な数値目標を設定することで、あるいは数値化できない目標は、より具体的なイメージを持つことで、逆算の精度が高まります。
逆算思考力では、「ゴールと目標が曖昧なまま逆算を始めてしまう」ことがよくある誤りです。不明確な状態では、逆算の精度は上がりません。まずは目的を明確に意識し、それに基づいて必要なステップを設計することが不可欠です。また、途中でゴールや目標が変わる場合は、逆算の再設計も柔軟に行う必要があります。
5.スキル向上のための共通ポイント
これら四つのスキルは、それぞれ独立しているようでいて、実際には密接に関連しています。抽象的思考力で得た共通項を、転用力で応用し、俯瞰力で全体像を捉え、逆算思考力で具体的な行動に落とし込む。この一連の流れが、ビジネスにおける成果を生み出す原動力となります。
そのため、スキルを個別に鍛えるだけでなく、相互に連携させて活用する意識を持つことが重要です。
<ビジネススキルの連携フロー>
また、スキル向上には「振り返り」が欠かせません。日々の業務の中で、「何がうまくいったか」「なぜうまくいったか」「次にどう活かすか」を定期的かつ徹底的に振り返り、深掘りすることで、日々の業務がスキル向上の場へと変わっていきます。
6.最後に
ビジネススキルは、単なる知識や技術ではなく、「考え方の質」を高めるものです。そしてその質は、日々の意識と習慣によって決まります。
以上