㈱ジャパンデンタル
管理部兼融資部兼企画本部
調査役 大德 凌
1.はじめに
前回のコラム(歯科医師が経営者として備えるべきリスクと保険の役割)では、歯科医院経営のリスクと、それに対する保険の役割を取り上げました。
今回はその続編として、「保険の定期的見直し」をテーマに、「年齢・ライフステージ」「保険種類」「経営環境」の3視点から解説します。
保険は契約した時点で「安心」を得たように感じますが、経営やライフステージの変化に応じて見直しを行わなければ、予定外の損失や資金ショートを招き、医院の存続を脅かすリスクとなります。
2.年齢・ライフステージ別に「見直す」
ライフステージの変化は、医院経営に直結するリスク構造を大きく変えます。保険は一度契約すれば終わりではなく、人生の節目ごとに確認が必要です。
(1)若年期(20代〜30代)— 開業と家庭形成の時期
開業準備や初期投資による借入負担が大きく、開業後しばらくは経済基盤が不安定な時期。さらに、結婚や出産などの家庭形成や住宅購入などのイベントがあり、家族を守る仕組みを整えることが不可欠です。
(2)中年期(40代〜50代)— 経営の拡大と私生活の充実期
医院が軌道に乗り、スタッフの雇用や法人化で経営の規模が拡大。私生活も住宅ローンに加えて子どもの教育費など、支出のピークを迎えます。医院と私生活の固定費を踏まえた保障水準の調整が求められます。
(3)高年期(60代〜)— 事業承継と老後準備
医院承継や相続対策が現実的な課題となり、資産移転や老後資金の確保が必要。保障の目的を生活保障から、資産移転・退職金原資へシフトします。
3.保険の種類別に「点検する」
契約内容が現状に合っているかの確認が必要です。
(1)企業総合補償保険
建物・設備・什器備品の損害や休業損失を包括的に補償。設備更新や増設時に補償範囲と保険金額を確認します。
(2)所得補償保険
就業不能期間中の所得を補償。収入や固定費の変化に応じた保険金額を調整します。
(3)医師賠償責任保険
診療行為に起因する損害賠償リスクを補償。診療内容の高度化へ対応しているか、示談交渉費用や弁護士費用の付帯有無も確認します。
(4)生命保険
ライフイベントや法人化に応じて保障額・受取人を見直し、退職金や相続対策にも活用。税制との整合も確認します。
4.経営環境の変化に「対応する」
制度・技術・社会環境の変化に保険契約が追随できていない場合、契約は陳腐化します。以下の視点で定期的な確認が必要です。
(1)医療制度改定と診療報酬変動、診療内容の変動
医療制度・診療報酬の改定時や訪問診療開始、新技術導入時に補償範囲と保険金額を確認します。
(2)サイバーリスク
電子カルテやオンライン資格確認等のシステムの普及により、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクは急増。セキュリティ対策とサイバー保険の加入状況を確認します。
(3)自然災害・感染症リスク
所在地のハザードマップをもとに、地震・水害リスクを確認。地震・水災特約や感染症特約の付保状況を確認します。
(4)自費診療・設備投資リスク
自費診療の比率が高まると、設備投資額も増加。保険金額が現在の設備機器に基づいているかを確認します。
5.見直しを怠った場合のリスク
(1)保障不足や補償不足による資金ショート
診療停止時に運転資金確保できず、医院経営再開不能となる恐れがあります。また、生活費が賄えないという事態も起こり得ます。
(2)制度改定による補償の陳腐化
新技術導入後に補償範囲が対応していない場合、事故時に支払対象外となる可能性があります。
(3)税務上の非効率
法人契約未対応で損金算入機会を逃し、節税効果が得られない場合があります。
(4)医院承継時の資金不足・相続トラブル
後継者への承継が円滑に進まない可能性や相続人間のトラブルに発展する場合があります。
(5)サイバー攻撃・情報漏えいによる信用失墜
情報漏えい対応が不十分で、損害賠償や信用失墜のリスクが高まります。
6.最後に
保険の定期的な見直しは「任意」ではなく、経営の「必須業務」です。保険は契約して終わりではなく、イベント発生時や定期的な見直しにより、現状のリスクに応じて再設計することが求められます。
以 上

