JD COLUMN

ジャパンデンタルのコラム

2020.10.01 コラム

歯科医院開業の公式

執行役員営業本部副本部長
関 修

 

損益差額(粗利) – (開業時総借入金/借入融資期間) : 個人生計費

 

1.急ピッチで進む昨今の歯科医院開業時投資総額の上昇

国民デンタルIQの向上に比例し、患者に訴える歯科医院作りの必要性と歯科医師自身の専門性への訴求要求もあり、開業時に必要とされる機械や専用施設などの追加の為、今から20年前の私たちが開業を担当した一般的なテナント開業総投資額である5~6000万円は7~9000万円程度まで上昇しています。
 
しかし、開業総投資額の上昇にもかかわらず、高額の資金調達は、「融資する企業がない」という金融業界の不況により簡単に解決してしまいました。
地方銀行を中心にダブついた資金が歯科医院開業資金需要に一気に流れ込み、「結果として調達さえできれば何の問題もない」と言った安易な事業計画が、深い検証・考察もないまま進んでしまい、元金据え置き期間満了後にキャッシュフロー不足に直面する事態が増加しております。
 
必要資金の増加に資金調達が対応出来たとしても、低減状態の歯科医院収益まで思慮が配られておらず、肥大化した必要投資額を頭打ちの収益で返済していく必要がある。これがキャッシュフロー不足の医院を生み出す大きな要因となっていることから、私の考える歯科医院開業の要諦として表題大文字の式を提唱していきたい。
 

 

2.検証して行きましょう~キャッシュフローについて

開業事業計画が手元に在る方であれば、数値を当てはめるだけで簡単に考察を進めることが出来ますが、ここでは一般論として以下の数値を参考に説明を加えていきます。
 
①テナント歯科医院開業モデル
・借入金   80.000千円   前出の昨今開業投資総額値より
・借入期間 15年       JD歯科医院開業データより
※注意 内装・機械の対応融資は15年ですが、運転資金は7年の場合は金額
との按分により平均期間に変更として下さい。
 

② 損益差額 11.879千円 厚労省「医療経済実態調査(H29)」より
※医業収益から医療原価・一般経費を除いた粗利益
 

③ 生計費 6.410千円 勤務歯科医平均年収+事業用保険(生損保)
※歯科勤務医平均年収と非経費の保険を生計費と仮定します。
生計費の削減は難しい事より勤務医平均年収をそのまま参入しました。
 

11,879千円-(80,000千円/15年)=6,546千円≒生計費6,410千円

※利息は経費のため除外し、元金返済余力能力を見る。
 
 
ここでの注意点としていくつか挙げて行きたいと思います。
 

1.損益差額11.879千円 

別紙資料でも損益差額は前年対ほぼ横這いですが、簡単には増加しないとの認識が必要なことと、この利益を確保するための医業収益は40.393千円必要です。しかし、開業初年度または2年目にこの歯科平均収益に到達可能なのでしょうか? 一般的な考察では3~5年くらい時間を要すると思われるため、安全性を考えて更に抑えた利益想定としていくべきではないでしょうか?
 

2.80.000千円/15年

専門性訴求力の必要性や、求める医院の質を高めれば、借入金は当然増加し、80,000千円で収まるでしょうか?総借入金額が上昇すれば当然に毎年の返済負担が増加していきますので、以下の様な考え方も必要でしょう。
 
A 総借入金額を抑える
B 返済期間を長期化する
C 元金据置期間の長期化(立ち上がり対策として)
 
などの対応策が必要です。
 

3.6.546千円 ≒ 生計費 6.410千円

ギリギリ生計費確保は出来ていると言えます。但しギリギリで余力はありません。よく見かける事業計画書ではこの生計費予定を月額20~30万円程度の置き数字としてしまい、「利益確保は出来る」と主張するものを見かけます。
 
 前にも書きましたが生計費削減は非常に難しいです。勤務医時代に年収600万円(月50万)の生活をしてきた中、いきなり半分にすることは絶対に不可能なのです。
 
 以上書き連ねてきましたが、開業を考える若い歯科医師の皆様方は当然に自信満々で計画に当たっていると思われます。しかし、ちょっとだけ立ち止まって考える勇気も持ってください。
 
 
医療収益の算出内容に整合性はありますか?
自費治療の収益期待もあるでしょうが、開業直後はみなさん新規指導に対する対応から売り上げを抑える傾向があります。この為、開業後すぐに売り上げ数字を大きく期待する事は如何でしょう?

まして、勤務先での実績や集客力は、勤務先経営者のものです。開業後も同じ結果になる保証などありません。営業日数が極端に多くしていませんか? またスタッフのローテーションや労働時間に配慮はありますか? 医院の最大の経費は人件費です。これを少なく見積もれば当然に利益は机の上では上がります。
 
投資計画はそれ以上なんとしても抑えられませんか?
売上の根拠となる歯科機械や内装をむやみに削る必要はありません。しかし、「あったらいいな。すぐには使わないけど、予備として」は後回しにしましょう。
 
これまで検討した通り、吟味された売り上げ根拠にて安定的に返済可能な返済額設定と出来ていますか?
投資総額が大きいと感じたならば、取れる手段はA.B.Cしかありません。しかし、この対応を借入した後に金融機関に申し入れても聞いてくれません。運よく対応して頂けたとしても信用力はガタ落ちとなります。必ず事前に事業計画立案の段階で盛り込んでください。
 
皆様の歯科医院開業が健全で安定的に発展することを祈念致します。

 

歯科医師の年収

開業医と勤務医、それぞれの年収

歯科医師とひとくちに言っても、開業医と勤務医では平均年収にも差が生まれます。厚生労働省による平成29年 医療経済実態調査(p28,273)では、それぞれ下記のように発表されました。

 

勤務医が必要とされる保険など

・所得補償保険、医師賠償責任保険など

(開業後には必要経費に算入されますが、逆に万が一の際の開業資金等の返済を目的とした生命保険は個人立の場合は全額経費とはなりません)

 

歯科診療所医業収益

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