㈱ジャパンデンタル 札幌支店長
高階 陽平
入社以来、開業資金融資およびコンサルティングでご縁を頂いた先生方はおかげさまで100件超となります。
その中で私の主観にはなりますが、盛業されている先生方の共通点をいくつか論じてみたいと思います。
1.コンサルティング会社に任せ過ぎない
歯科コンサルティングを業務としている会社や個人事業主は非常に多く、弊社もご融資が出来てコンサルもできると自負しておりますので、そのひとつと言えます。また、先生方にとっても先輩開業医からその利用について賛否は耳にされ、開業を検討している先生も費用対効果などから利用については熟慮されていると思います。そして、開業検討時は勤務などから多忙であり、打ち合わせは勤務後或いは休日にという先生方がほとんどと思います。
その様な背景から、コンサル業者が開業前付随業務として開業支援を一手に引き受けますという謳い文句から需要と供給がマッチしますので、ブレーンとして顧問契約を締結することは何ら問題ありません。
私がここで述べたいのは、決してコンサル会社を使う事が悪いという事ではなく、「任せすぎない」ことが大事とお伝えしたいのです。例えば、開業を決意された段階から早期に関与してもらうと確かに先生方にとりラクということは否定しません。ただし、全てお任せすることで思考停止に陥ってしまう危険があります。
開業における内装業者、機械販売店や金融機関との折衝、開設管理業務などをコンサル会社に任せきりにしていませんか?具体的には、打ち合わせ面談に先生が不在、不明点については業者しか回答できないなどです。融資支援の立場としては先生方にお会いできないと審査の段階で先生方への融資推奨要素が探せなくなることがあります。審査担当者も人間ですので、お会いして打ち合わせ回数を重ねた先生への融資条件を何とかしてあげたいという意識は当然働きます。
盛業の先生方の共通点として、コンサル業者はあくまで潜在ニーズや提案での立ち位置と割り切り「気付きを与えてくれる存在」として仕事をお願いし、自身の開業・経営であるという主体性意識が高いものです。
2.下振れリスクを常に考えている
車の「だろう運転」「かもしれない運転」と非常に似ています。高騰する人件費の中で特に歯科衛生士の安定確保、その他経営コストの増大、逆に、徐々に減っている診療報酬等の諸問題は今更触れませんが、どのような診療方針としても、売上とそれによって変動する費用(材料費、外注技工料)以外は確定値を盛り込んで事業計画を策定することになります。
そこで留意頂きたいのは、売上の楽観的な事業計画にし過ぎないことです。それは、先生方が開業する目的のひとつとして「生計費余剰金の確保と最大化」があり、殆どの先生方はそれが目的の最優先事項なので理解できます。具体的には、売上があり、そこから原価経費、税金支払、借入返済をした残りが開業の目的である生計費余剰金となりますが、その目的の手段として金融機関からの資金調達は必要不可欠であり、金融機関から融資を得ることに特化しすぎて、バラ色の事業計画になりすぎているものをよく拝見します。
それらは目標としての事業計画として絶対必要ですが、「かもしれない」パターンの事業計画の認識こそ意味のあるものと思います。
3.ディフェンスも考える
開業は特に増患策、広告宣伝、機器選定等に代表されるオフェンシブで前向きな打ち合わせが多く、各種リスクについて「自分は大丈夫」と軽く捉えがちです。前職は他業界の営業職でしたが、現職の歯科業界をみて常に感じることは、歯科診療は報酬改定はありますが皆保険制度を軸に極めて安定産業であり売上不芳は少ない業種と思っています。
故に、他業種と比較しリスクマネジメントに対する意識については軽薄な印象です。具体的には、先生方の病気ケガ事故、診療所のアクシデントをきっかけとした売上不振に一旦陥ると、そこからのV字回復が出来ていない現状があると思います。
盛業の先生方は、開業時の前向きな検討は勿論、ディフェンス防衛策として生命保険や損害保険加入についても確りと他人事にせず主体性を持って検討しています。補償内容のマニアックな保険或いは特約付保の必要はありませんが、最低限、火災を主とする損害保険、所得補償保険、医師賠償責任保険、生命保険は加入すべきです。
4.安易に診療日を増やさない、診療時間を延ばさない
コラムのタイトル「成功~」のひとつを前述の通り、「生計費余剰金の確保と最大化」と考えると、診療時間の長さによる診療機会確保として診療日数や1日あたりの診療時間を増やすことも当然検討されるはずです。その効果として「生計費余剰金」の原資である売上が増加することは想像に難くないと思います。
但し、診療日診療時間を増やすと、同時に診療体制構築によるスタッフのシフトや増員が必要になるケースも多く十分な検討が必要です。15年程前には歯科=サービス業として夜間診療がトレンドでしたが、最近の傾向として歯科診療時間を見直す医院も多くなっています。具体的には、スタッフの週44時間勤務を前提に、週5.5日1日9時間勤務を例に、常時スタッフ3名診療体制とする場合、週5.5日×9時間=49.5時間/週-44時間=超過週5.5時間分の調整を要し、シフト制とスタッフ配置のやりくりが必要になります。その人件費やその他諸経費をペイ出来るだけの売上確保に至っていないケースが散見されます。
収支以外にも、スタッフの確保やモチベーション維持、患者のキャンセル率の高さ等超えるべき障壁が多く、開業時の診療日数と診療時間を慎重に検討する先生方は多く、思い切って診療時間を週44時間以内としている医院も多く、収支安定により結果的に余剰金確保に繋がっている印象です。このことは開業時に限らず、盛業中の先生方も同様の傾向です。最近は休診日を水曜日や土曜日とせず、日曜日と月曜日とし、スタッフ連休確保且つ一定数ある土曜診療ニーズにも対応している医院が好調な印象です。
5.内覧会を実施する
新規開業した医院にとって、患者数や保険収入が増えていくかどうか。どの程度までレセプト件数が増えるかを見極めるには新患数が重要です。
保険収入が安定するレセプト件数が250件/月だとすれば、レセプト件数を維持確保するには、新患・再初診の獲得はその30%の75件/月が必要です。
(保険収入3,000千円/月=250件×1,200点/件)
(獲得必要人数75人=250件×終了率30%)
新患を確保するためには、開業広告や看板設置など認知度を高める事はもちろんですが、内覧会の開催で、院長やスタッフの顔を見てもらう、医院の最新設備を見てもらう、医院の診療方針を知ってもらい、是非、この歯科医院で治療をして貰いたいと思ってもらう事が重要です。スタートダッシュが効けばその後もどんどんと新患が増えます。内覧会専門の業者を使って内覧会と開業広告を行なった結果、100~200人の内覧者を迎え、50~70人の新患を獲得し、その後も続々と新患が来る事例は沢山あります。
基本的には開業時のみとタイミングが限られるので、冠婚葬祭の様なイメージでしょうか。派手に実施する必要はないと思います。ですが、開業時の宣伝は一度しか出来ない大事なイベントです。スタートダッシュのためにも効果的な開業広告を行って下さい。たら・ればの域を出ませんが、費用対効果に疑問から開催を見送り、結果思うほどの来患がなく、結果として内覧会開催のタイミングを逸したと後悔している先生もいらっしゃいます。また、徐々に患者が増えてくれれば良い言う先生が居ますが、周辺住民は、どんな院長だろうどんな医院だろうと警戒心と共に興味を持って観察していますので、立ち上がりの弱い歯科医院はなかなか患者数が増えないのが現実です。
6.必要書類をすぐにご提出いただける
蛇足ではありますが、当コラムの執筆にあたり、成功している先生方の共通項は何かを考えたときに、個人的に開業後の盛業に相関関係があると思っているのがこの項目です。融資審査申込時に金融機関から提出を求められる各書類は概ね決まっています。
具体的には、既存借入の償還明細表、歯科医師免許証、確定申告書類などです。弊社に限らず金融機関での融資申込時に提出を求められる書類ですので融資検討の先生方は事前確認をお願いいたします。
弊社はコンサルティング業務として、前記の事業計画書作成検証、生損保各保険の斡旋、開業後のレセプト分析、各種業者紹介等実施しております。是非、歯科医院経営コンサルティングのブレーンとしてお声掛け頂ければ幸いです。
以 上