㈱ジャパンデンタル
執行役員企画本部長兼システム部長
入江 英之
ビジネスシーンでは、多様なスキルが要求されます。しかし、成功を手にするためには、早い段階で特に重要なスキルを優先的に習得していくことが必要です。
本稿では、社会での活躍と成功を目指す際に必要とされるビジネススキルについて、考察していきます。
1.ビジネススキルの三分類
ビジネススキルは、学者らによってさまざまな観点から分類がされています。ここでは、アメリカの経済学者ロバート・カッツが提唱した、カッツモデル(カッツ理論)に基づいた三分類をご紹介します。
(1)業務遂行能力(テクニカルスキル)
業務遂行能力(テクニカルスキル)とは、特定の職務を効果的に遂行するための専門的な知識や技術を指します。これらは、職種や業界に特有のスキルであり、例えば、事業会社における業務手順や商品知識、また、歯科医師における治療技術などが含まれます。
(2)対人関係能力(ヒューマンスキル)
対人関係能力(ヒューマンスキル)とは、コミュニケーションを円滑に行うことや、リーダーシップを発揮するスキルを指します。職場においては、人間関係の構築やチーム内での調和を保つことが求められます。また、顧客を含む対外関係の円滑な関係維持にも重要です。歯科医師におけるスタッフや患者とのコミュニケーションも同様です。
(3)概念化能力(コンセプチュアルスキル)
概念化能力(コンセプチュアルスキル)とは、高度な抽象的思考を行い、問題解決や戦略策定を行うスキルを指します。組織内での意思決定やプロジェクト管理に利用されることが多く、特にマネジメント層の職階が上がるうえで伸ばすべきスキルとなります。歯科医師であっても、個人事業主として開業する際や、組織拡大などさらなる成長を目指す際に必要となります。
2.ビジネススキル分類の実践的活用法
ビジネススキルは上記三分類からさらに細かく区分されますが、分類や区分の仕方そのものにあまり意味はなく、その活用方法にこそ真価があります。
自分自身のスキルを客観的に細かく評価し、強化すべきスキルを明確にすることが重要です。また、他者の能力を評価したり、能力開発へと活用することもできます。さらには、採用や部署間での適性判断やキャリアチェンジにも有効な指標となります。
3.優先的に習得すべきビジネススキル
組織で高い地位に就く人やハイレベルなコンサルタントは、多様なビジネススキルを高い次元で備え発揮することが求められます。キャリアを着実に築くためには、多様なスキルをバランスよく習得し伸ばすことが理想的ですが、なかなか理想通りにはうまくは行かないでしょう。そのため、特にキャリアスタート時に優先的に習得すべきスキルについて、見定めることが必要です。以下は、概念化能力(コンセプチュアルスキル)の中で、私が最も重視している四つのスキルをご紹介します。
(1)抽象的思考力
抽象的思考力とは、具体的な状況や事象からその背後にある基本的なパターンや概念、すなわち共通項を見つけ出すスキルです。点と点だった業務や学習内容が線につながった状況、個々の事象が統合的に理解された状況、原理原則が導き出された状況など、いろいろな言い回しがありますが、共通項が概念された状況で、物事を頭の中で共通事項と例外事項に分類することができるようになることです。このスキルのおかげで、個々の業務や学習内容が統合的に理解され、仕事や学習効率が飛躍的に向上します。
学生時代に今まで分からなかったことの理解が急に進んで、成績が上がり始めた経験や、日々仕事をしていてコツが分かり、急に成果が上がり始めた経験はないでしょうか。おそらくここで発揮されているのが抽象的思考力です。このスキル習得の効果として、他人の話や本の内容も疑似体験として吸収でき、経験値を広げることができます。同じ物を見て同じ時間を過ごしても、人と差がつくのはそういったスキルの差なのかもしれません。
(2)転用力
転用力とは、一つの状況や問題で学んだ知識を新たな状況や問題に適用するスキルです。異なる状況や変化していく状況に適応し、新たな問題を解決するために必要です。前述の抽象的思考力と一体で発揮することにより、共通事項と例外事項を新たな問題に適用し解決することができる、応用力といったところです。
(3)俯瞰力
俯瞰力とは、ビジネスなどの全体像を理解し、それを基に意思決定や問題解決を行うスキルです。全体から個別事象へのアプローチ、また逆に個別事象から全体へのアプローチにより、目先のミクロの視点だけではなく、全体像を理解したうえで複数の視点から考察し、優先順位の設定や全体の中のバランスを取り、問題を解決するスキルです。
(4)逆算思考力
逆算思考力とは、目標を設定し、その目標を達成するためにどのようなステップを踏むべきかを逆算するスキルです。つまり、ゴールを最初に設定し、そこから現在の位置までの道のりを逆順に計画します。ゴールから現在地へのアプローチ、また逆に現在地からゴールへのアプローチにより、目先の足もとの視点だけではなくゴールを意識したうえで考察し、優先順位の設定や全体の中のバランスを取り、問題を解決するスキルです。
前述の俯瞰力と対をなすものであり一体です。俯瞰力が上下の目線移動だとすると、逆算思考力は左右の目線移動といったところでしょう。
特にキャリアスタート時は、これら四つのスキルを意識的に習得し磨くことが必要です。組織の大小にかかわりなく、組織をマネジメントして成功を手にするためには、これらを念頭において、日々の業務や学習に取り組むことが重要です。
以 上