
院長が毎月確認すべき経営数字 5 選
― 毎月30分の確認が医院の未来を変える ―
歯科医院の院長先生は、患者さんの治療、スタッフへの指示、技工所とのやり取り、各種事務作業など、日々の診療に追われています。その一方で、「経営の数字は税理士に任せている」「決算書は年に一度しか見ない」というケースも少なくありません。
しかし、歯科医院も一つの事業です。経営状態を把握していなければ、気付かないうちに利益が減少したり、資金繰りが悪化したりすることがあります。毎日長時間数字を見る必要はありません。まずは毎月30分、最低限の数字を確認する習慣をつけることが大切です。
そして、数字は単月の金額だけを見るのではなく、前月・前年同月・計画と比較し、「なぜ変化したのか」を考えることが重要です。今回は、個人立歯科医院の院長が毎月確認したい「経営数字5選」をご紹介します。
① 医業収入 ― まずは医院全体の動きをつかむ
最初に確認したいのは月間の医業収入です。ただし、「今月は800万円だった」で終わってはいけません。前年同月はいくらだったか、前月からどう変化したか、計画に対して達成できたかを確認します。
収入が減っていれば、患者数が減ったのか、診療日数が少なかったのか、自費診療が減ったのかなど、その原因を考えます。反対に収入が増えた場合も、何が増収につながったのかを把握できれば、次の経営判断に生かすことができます。
② 患者数・新患数 ― 診療量と将来の患者基盤を見る
月間患者数は医院の診療量を示す基本的な指標です。前年同月と比較し、増加・横ばい・減少の傾向を確認しましょう。スタッフ退職による予約枠の減少、診療時間の変更、近隣への競合医院の開業など、数字の変化には背景があります。
併せて新患数も確認します。新患数は将来の患者基盤を考えるうえで重要な数字です。ホームページ、Googleマップ、紹介、看板など来院経路も把握すれば、どの集患施策が機能しているのかを判断しやすくなります。患者数と新患数は別々に見るのではなく、「医院全体の診療量」と「新しい患者の流入」という二つの視点で確認しましょう。
③ 自費率・自費収入 ― 「率」と「金額」をセットで見る
自費率とは、医業収入に占める自費診療収入の割合です。インプラント、矯正、セラミック治療、ホワイトニングなど、自費診療に力を入れる医院もありますが、自費率は高ければ高いほど良いというものではありません。保険診療を中心に地域医療へ貢献する医院も数多くあります。
大切なのは、自院の診療方針に対して現在の自費診療の状況が適切かを把握することです。また、自費率だけでなく自費収入の金額も併せて確認しましょう。売上全体が減れば、自費率が上昇していても自費収入そのものは増えていない場合があります。
④ 人件費率 ― 売上とのバランスを継続して確認する
歯科医院において、人件費は大きな支出項目の一つです。人件費率は「人件費÷医業収入」で確認します。人材確保のため給与水準が上昇する一方、医業収入が伸びなければ人件費率は上昇します。
ただし、人件費率だけを下げようとすれば、必要な人員まで削減し、スタッフの負担増加や離職につながる可能性があります。重要なのは単月の数字に一喜一憂することではなく、毎月同じ基準で計算し、その推移を見ることです。上昇が続く場合には、予約体制、業務分担、スタッフ配置、生産性などを確認します。
⑤ 資金残高 ― 最後に医院を守るのは「手元資金」
私が最も重要だと思う数字が資金残高です。医院経営では、利益が出ていても手元資金がなければ経営を続けることはできません。設備ローンの返済、賞与、税金などは実際の資金から支払います。決算書上では黒字でも、資金繰りに苦労することはあります。
毎月、預金残高を確認するとともに、その金額が人件費、家賃、リース料、借入返済など固定的な支出の何か月分に相当するのかを意識しましょう。また、毎月の借入返済額も把握し、返済後に十分な資金が残っているかを確認します。設備投資によって売上が増えたとしても、借入金の返済や設備関連費用が増え、手元資金が思ったほど増えないことがあります。設備投資そのものが問題なのではなく、返済能力と資金余力を踏まえて判断することが重要です。
「売上・利益・資金」をつなげて考える
売上が増えても、経費がそれ以上に増えれば利益は減ります。また、利益が出ていても、借入返済や設備投資などによって資金が減ることがあります。経営を正しく判断するためには、「売上」「利益」「資金」をつなげて考えることが大切です。
可能であれば、税理士から月次試算表を受け取り、医業収入だけでなく経常的な利益や現預金残高の推移も確認しましょう。難しい会計知識を身につけることが目的ではありません。「今月はなぜこの数字になったのか」を考えることが、経営改善の第一歩です。
まとめ ― 数字そのものより「変化」を見る
まずは毎月30分、「医業収入」「患者数・新患数」「自費率・自費収入」「人件費率」「資金残高」の5つを確認する習慣を身につけましょう。そして、それぞれを前月・前年同月・計画と比較し、変化の理由を考えます。
数字は医院の健康状態を映す「経営の健康診断書」です。患者さんの口腔内を定期的にチェックするように、医院経営にも定期的なチェックが欠かせません。優れた歯科医師が患者さんの変化を見逃さないように、経営者も経営数字の変化を見逃さない。毎月30分の確認が、5年後、10年後の医院経営に大きな差を生むのではないでしょうか。
次回は「設備導入前に確認したいしたい資金繰りのポイント」について考えます。


